認知症初期の方が良質な睡眠をとるコツ5選〜昼間の行動と隠れた原因対策で、夜ぐっすり眠るために〜

【医師監修】認知症初期でも、昼間の行動と隠れた原因対策で睡眠の質は変わります。環境調整や就寝前のリラックス、サプリの活用法など、実践しやすいコツを5つ厳選。

はじめに

「最近、物忘れが増えてきた」「夜になかなか寝つけない」「夜中に何度も目が覚めてしまう」――こうした悩みを抱える60代以上の方の中には、認知症初期の可能性を意識し始めている方もいらっしゃるのではないでしょうか。実は、認知症の初期段階で「睡眠が浅い」「夜間に目が覚めてしまう」といった症状が見られるケースは少なくありません。

この記事では、認知症初期の方が快適な睡眠を取るために役立つ5つのコツをご紹介します。昼間の行動が夜の睡眠を左右することや、意外な原因(多剤併用・うつ傾向・トイレ問題など)が深い眠りを妨げていることも。夜の過ごし方だけでなく、日中のライフスタイルや隠れた原因への対策を含め、幅広い視点からアプローチしていきましょう。

認知症初期と睡眠の深い関係

なぜ睡眠が認知症初期に重要なのか?

睡眠は、脳を休ませたり修復したりするために欠かせない時間です。最近の研究では、不十分な睡眠が認知機能の低下を進行させる可能性が指摘されています。脳内の老廃物は主に睡眠中に排出されるとされており、睡眠不足が続くと老廃物が蓄積しやすくなるかもしれません。

初期にありがちな睡眠トラブル

  • 寝付きが悪い: 布団に入ってもなかなか眠れない
  • 中途覚醒: 夜中に何度も目が覚めてしまう
  • 早朝覚醒: 朝早く目が覚め、その後眠れない
  • 昼夜逆転: 夜は起きていて、昼間にうとうとしてしまう

こうした睡眠の乱れが続くと、翌日の集中力や記憶力の低下につながり、認知症の進行リスクが高まる可能性もあります。そこで大切なのが、昼間の行動睡眠環境の整備といった具体的な対策です。

昼間の行動が夜の睡眠を左右する

日光を浴びる・適度な運動の重要性

POINT

朝〜昼の光をしっかり浴びる

 朝や日中に日光を浴びると、体内時計をリセットしやすくなります。人の体は明るい光を浴びることで「今は活動時間だ」と認識し、夜になれば自然と眠りを促すホルモン(メラトニン)が分泌されやすくなります。

POINT

適度な運動や外出

 ウォーキングや軽い体操など、無理のない範囲で体を動かす習慣をつけることで、夜の睡眠の質が高まりやすくなります。身体を動かすと程よい疲労感が得られ、就寝時にスムーズに入眠しやすくなるでしょう。

POINT

昼寝の長さに注意

高齢者は昼間に眠気を感じやすいですが、昼寝が長すぎると夜に眠れなくなる悪循環が起こりやすいです。目安としては30分以内の仮眠がおすすめ。短時間の昼寝なら頭がすっきりし、夜もしっかり寝られる可能性が高まります。

夕方〜夜のサンセットシンドローム対策

認知症初期の方に多いのが、夕方以降に落ち着きがなくなる「サンセットシンドローム(夕暮れ症候群)」です。夕方から夜にかけて外が暗くなると、不安や混乱が増し、体内リズムが崩れてしまう場合があります。

  • 照明を徐々に落とす: いきなり真っ暗にせず、夕方から少しずつ照度を落として夜へ移行すると、体内リズムがスムーズに切り替わる。
  • 夕食のタイミングを見直す: 就寝3時間前までに食べ終えると消化が進み、寝付きがスムーズに。
  • 落ち着ける環境づくり: テレビや大きな音を控え、穏やかな音楽や適度な照明で心をリラックスさせる。

ウェアラブル機器の活用で睡眠を「見える化」

睡眠トラッカーとは?

ウェアラブル機器やスマホアプリを活用して、自分がどれくらい眠っているかを記録・分析する方法があります。たとえば、スマートウォッチスマホの睡眠アプリでは、

  • 就寝・起床時間
  • 夜中の覚醒回数
  • 睡眠の深さ(深い眠り/浅い眠りの割合)

などを自動でグラフ化してくれます。高齢者にも使いやすい、文字が大きく見やすい機器も増えてきています。

睡眠データを医師・家族と共有するメリット

  • 客観的な証拠になる: 「夜中に何度も起きている気がするけれど、正確にはわからない…」といった主観的な情報を、客観的データとして把握できる。
  • 受診がスムーズ: 医師にデータを見せることで、より的確なアドバイスをもらいやすい。
  • 家族のサポート: 家族も睡眠パターンを把握できるため、昼間の対応やサポートがしやすくなる。

ウェアラブル機器は必須ではありませんが、「いつ・どれくらい眠れているか」を把握する手段があるだけでも対策のヒントを得やすいでしょう。

認知症初期の方が良質な睡眠をとるコツ5選

ここからは、具体的に取り組みやすい5つのコツを紹介します。すぐにできるものから、医師と相談が必要なものまで幅広くまとめています。

環境調整(照明・室温・夜間安全対策)

  • 部屋の照明: 夜は暖色系のやや暗めの照明にするとリラックスしやすいです。朝は自然光を取り入れてメリハリをつけましょう。
  • 室温・湿度: 夏はエアコンで冷やしすぎない、冬は乾燥しすぎないよう加湿器を使うなど、快適な温度・湿度を保つ。
  • 夜間の安全対策: トイレまでの経路を片付けておき、必要に応じて足元ライトや手すりを設置。安心感につながり、ぐっすり眠れます。

就寝前のリラックス&デジタルデトックス

  • 軽いストレッチや呼吸法: 体を軽くほぐし、深呼吸をすると副交感神経が優位になり、寝つきが良くなる可能性があります。
  • 入浴やアロマ、音楽: お風呂で体を温めると自然とリラックスモードに。好きな香りのアロマや落ち着いた音楽を取り入れるのも一手。
  • デジタルデトックス: スマホやパソコンのブルーライトは脳を覚醒状態にしやすいです。就寝1時間前にはデバイスを遠ざけるか、ブルーライトカットモードを活用しましょう。

メラトニン製剤・サプリの注意点

  • メラトニン製剤: 一部の国では市販されていますが、日本では医師の処方が必要な場合があります。
  • サプリメント: 「サプリなら安心」というイメージがありますが、実は体質によって合う・合わないがあり、他の薬との相互作用のリスクも。
  • 専門家に相談: 必ず主治医や薬剤師と相談してから利用を検討しましょう。

隠れた原因への対策(うつ傾向・多剤併用・夜間のトイレ)

  • うつ傾向: 認知症初期の不安や生活の変化から気分が落ち込み、不眠を招いている場合も。精神科やカウンセリングのサポートを検討してみてください。
  • 多剤併用(ポリファーマシー): 高血圧、糖尿病、関節痛など複数の持病で多くの薬を飲んでいる場合、一部の薬が睡眠に影響している可能性があります。定期的に服薬を見直しましょう。
  • 夜間トイレ対策: 就寝前の水分量や利尿作用のある薬のタイミングを工夫する、トイレへの導線を安全にするなど、夜に起きる回数を減らす工夫がポイントです。

 治験や最新薬への可能性

  • 新しい治療薬の開発状況: オレキシン受容体拮抗薬など、これまでと異なる作用機序の睡眠薬が登場しています。認知症初期の不眠に適しているかは個人差があるため専門医に相談を。
  • 治験という選択肢: 大学病院や治験情報サイトなどで、新薬開発の試験に参加できる場合があります。
  • メリットとデメリット: 治験では新しい薬を試せるメリットがある一方、副作用リスクや通院頻度などの負担も。専門家と十分に話し合って検討するのが望ましいです。

実践時の注意点と個人差

睡眠の改善策は、続けるうちに少しずつ効果を実感する場合が多いものです。人によってはすぐに変化を感じられないこともありますが、焦らずに取り組んでみてください。また、認知症の進行度や健康状態によって効果には個人差がある点にも注意しましょう。

  • 無理のない範囲で: 運動や昼間の外出が負担になる場合は、まずは室内でできるストレッチや簡単な体操からスタート。
  • 転倒防止・安全第一: 夜間の移動には特に気をつける。手すりや足元ライトの設置などでリスクを減らす。
  • 症状が改善しない場合は受診を: 長期にわたって不眠が続いたり、不安が強い場合は早めに専門医へ相談しましょう。

まとめ・次に取るべき行動

認知症初期で不眠症状がある場合、夜の過ごし方だけでなく、昼間の活動や生活リズム、隠れた原因への対処が鍵となります。まずは以下のポイントを振り返ってみてください。

  1. 昼間にしっかり体を動かし、日光を浴びる
  2. 就寝前は落ち着ける環境を整え、デジタル画面を控える
  3. メラトニン製剤やサプリを使う場合は、必ず専門家に相談
  4. うつ傾向や多剤併用、夜間トイレなどの隠れた原因をチェック
  5. 治験や新薬という選択肢があることを知り、メリット・デメリットを把握

もしこうした対策を試しても不安や不眠が続く場合は、早めにかかりつけ医や認知症外来などで相談しましょう。専門家の視点を交えれば、自分に合ったケアプランを見つけやすくなります。小さな工夫の積み重ねが、夜の安眠と日々の生活の質を大きく向上させるかもしれません。ぜひ、できることから少しずつ始めてみてください。

東京センタークリニック 院長 長嶋 浩貴

Hirotaka Nagashima

千葉大学医学部卒業後、東京女子医科大学循環器内科に入局。ハーバード大学医学部での研究経験を経て、東京女子医科大学で血管研究室長を歴任。その後、350以上の治験に携わり、2017年には日本初の分散型治験を実施。現在は東京センタークリニック院長として、認知症を含む多くの臨床研究に取り組む。

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