【医師監修】高齢者の不眠はメラトニンが原因? 認知症症状を見逃さないために

当記事は、東京センタークリニック 院長 長嶋 浩貴 先生にご監修いただきました。
年齢とともに増える「眠れない」という悩み。その背景には、メラトニンの減少や認知症初期の変化が関わっていることがあります。
この記事では、高齢者の不眠の原因と対策、受診や治験という選択肢についてやさしく解説します。
はじめに
「高齢になると眠りが浅くなりやすい」とよく聞きますが、その原因のひとつに“メラトニン”というホルモンの分泌低下があるといわれています。
実際に、
- 寝つきが悪い、眠れない
- 夜中に何度も目が覚める
などの不眠に悩む高齢者は少なくありません。
さらに、不眠が続く背景には、認知症初期(軽度認知障害:MCIを含む)の変化が影響している可能性も指摘されています。
自分自身が認知症初期にあると気づかないまま、不眠症状だけが先に表れるケースもあるといわれています。
なぜ高齢者は不眠になりやすい? メラトニンと加齢の関係
メラトニンとは?
メラトニンは、脳内の松果体(しょうかたい)という部位で作られるホルモンで、夜になると分泌量が増加し、自然な眠気を誘発する役割があります。

加齢によるメラトニン分泌低下
若い頃に比べ、高齢者は夜間のメラトニン分泌が低下しやすいと報告されています。
その結果、
- 寝つきが悪い
- 夜中に目が覚めやすい
- 早朝に目が覚めてしまう
など、睡眠が十分取れない状態に陥りやすいと考えられています。
さらに、メラトニンの分泌リズム自体が乱れると、昼夜の区別がつきにくくなり、「昼夜逆転」のような睡眠パターンにつながる可能性もあります。
不眠と認知症初期が重なると起こりうること
軽度認知障害(MCI)と睡眠の関係
「軽度認知障害(MCI)」とは、日常生活に大きな支障をきたさないものの、認知症へ進行するリスクが通常より高い状態を指します。
MCIを含め認知症の初期段階では、脳の一部で微妙な機能低下が始まっており、これが睡眠覚醒リズムを司る領域にも影響すると考えられています。
不眠が脳へ及ぼす影響
睡眠が十分に取れない日が続き、深い眠り(ノンレム睡眠)が不足すると、
- 日中にぼんやりする
- 物忘れが増える
- 集中力が落ちる
などの症状があらわれ、認知機能の低下がさらに進んでしまうリスクも指摘されています。
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メラトニンを整える生活習慣― 今日からできる具体策
メラトニンの分泌を整えるためには、日々の生活リズムを見直すことが大切です。
ここでは、無理なく続けやすい具体的な対策をご紹介します。
1.朝の光を浴びて体内時計をリセット
朝、目が覚めたらまずカーテンを開け、自然の光をしっかり浴びましょう。
太陽の光は体内時計をリセットし、夜のメラトニン分泌を促すスイッチの役割を果たします。
起床後できるだけ早い時間に光を取り入れることで、睡眠リズムが整いやすくなります。
2.昼間は適度に体を動かす
日中に軽い運動を取り入れることも効果的です。
たとえば、
- ウォーキングを習慣にする
- 軽いストレッチで体をほぐす
- できれば、太陽の光を浴びながら体を動かす
といった心がけが、夜の自然な眠気につながります。
無理のない範囲で、継続できる運動を選びましょう。
3.昼寝は“短く・早めに”
高齢になると日中に眠気を感じやすくなりますが、長時間の昼寝は夜間の不眠を悪化させることがあります。
昼寝をする場合は、
- 30分以内にとどめる
- 午後3時以降は避ける
この2点を意識することが大切です。
「少し休む」程度に抑えることで、夜の睡眠への影響を最小限にできます。
4.夜はブルーライトを控えめに
就寝前のスマートフォンやタブレットの使用は、メラトニン分泌を妨げる原因になります。
眠る1〜2時間前からは電子機器の使用を控え、どうしても使う場合はブルーライトカット機能を活用しましょう。
夜は部屋の照明もやや落とし、体に「これから眠る時間」であることを知らせてあげることが大切です。
5.生活リズムを一定に保つ
メラトニンを安定させるうえで最も基本となるのが、規則正しい生活です。
- 毎日できるだけ同じ時間に起きる
- 食事の時間を大きくずらさない
- 就寝時間を一定に保つ
こうした「生活リズムをできるだけ一定に保つ工夫」の積み重ねが、乱れがちな体内時計を整えます。
特に「毎日同じ時間に起きる」ことは、睡眠リズム改善の大きなポイントです。
メラトニン補充という選択肢 ― 日本での現状
生活習慣の見直しが基本ではありますが、生活習慣が整っていても、満足な睡眠が取れないという方も少なくありません。
実は、海外では「メラトニンを直接補う方法」として、メラトニンを配合したサプリメントが市販されています。
一方、日本ではメラトニンは医薬品として扱われており、サプリメントとして自由に購入することはできません。
そのため、自己判断で気軽に取り入れられる、という状況にはありません。
有効性・安全性は研究段階
メラトニン補充の有用性については、現在も研究が続いている段階です。
一定の効果が期待されるという報告がある一方で、対象や用量、長期的な安全性については慎重な評価が必要とされています。
だからこそ、医療機関での情報収集が重要になります。
認知症初期を疑ったら―受診のタイミングと治験という選択肢
「眠れない」だけでなく、
- 物忘れが増えてきた
- 集中力が続かない
- 日中にぼんやりすることが多い
こうした変化が重なっている場合は、早めの相談が大切です。
不眠が続く場合は専門医へ
長期間にわたる不眠や、認知機能の低下が気になる場合は、かかりつけ医や物忘れ外来などの専門医に相談しましょう。
早期に評価を受けることで、適切な対策につながります。
治験への参加という選択肢
選択肢のひとつとして「治験」を考えることもできます。
○メリット
- 新しい治療法に早い段階でアクセスできる可能性がある
△ デメリット
- 効果や安全性が十分に確立されていない場合がある
治験への参加は大きな決断です。
検討する際は、担当医や治験コーディネーターと十分に話し合い、納得したうえで判断することが重要です。
まとめ ― 不眠を“年齢のせい”だけにしないために
高齢者の不眠には、加齢によるメラトニン分泌の低下が深く関わっています。
さらに、認知症初期の変化が重なると、睡眠はより浅く、不安定になりやすくなります。
まずは生活習慣を整えること。それでも不眠が続く場合は、専門医への相談をためらわないことが大切です。
「年齢のせい」と諦めがちですが、少しご自身の状況を見つめてみることが、これからの生活をよりよくする、第一歩になるかもしれません。

参考文献
- Melatonin: A potential nighttime guardian against Alzheimer’s. Molecular Psychiatry, 30, 237–250 (2025)

監修医師
東京センタークリニック 院長 長嶋 浩貴
Hirotaka Nagashima
千葉大学医学部卒業後、東京女子医科大学循環器内科に入局。ハーバード大学医学部での研究経験を経て、東京女子医科大学で血管研究室長を歴任。その後、350以上の治験に携わり、2017年には日本初の分散型治験を実施。現在は東京センタークリニック院長として、認知症を含む多くの臨床研究に取り組む。
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